【米紙】 民主主義国家と侵略国家の違いはどこに
イギリスと同盟したい人の宣伝を聞くと
「『民主主義国家』は平和の象徴であり、他国の領土を尊重するが、『独裁制国家』は常に侵略と戦争である。独裁者は絶えず他国民を犠牲にしないと自国民を抑える事が出来ない」
と断言している。
……この二百五十年はどうだったか。五十年間、百年間は、と民主主義国家と独裁制国家の過去を比較したら、「独裁制国家は最も戦争好きで攻撃的」とは言えないはずだ。
ここ百年で最も戦争をした国はイギリスである。十年単位で見れば、列強中最大の領土拡張を行っている。次はフランス、三番目がアメリカである。
したがって、「絶えざる領土拡張」が独裁の提議なら、この百年で最大の独裁国家は、他でもない、イギリスであり、フランスであり、そしてアメリカである。
この三十年を見ても、次々に領土を拡大し、己の帝国に組み入れている国は所謂「独裁制国家」ではなく、民主主義国家とされる、あのイギリスとフランスなのである。
こうした厳然たる歴史に直面したら、「平和を愛する諸国」が、その数は少ないものの、力を合わせて、拡張を続ける「民主主義国家の脅威」に対抗するのはやむを得ないことではないか。
比べればわかる事だが、「独裁制の方が好戦的で拡張主義」とは言えないのである。
新聞はカイザーの治めるドイツ帝国を専制国家と揶揄していた。ところが、一八七一年に成立した「ドイツ帝国」は一九一四年の第一次大戦までの四三年間、一度も戦争をしなかった国である。アメリカもこれにはかなわない。あの英・仏は「平和を愛する民主主義国」と言われながら、四三年間、侵略戦争を続けた。スーダンを、南アフリカのトランスヴァールを、ビルマを、モロッコを、エジプトを、インドシナを、という具合に、次から次へと踏みにじるだけ踏みにじり、「帝国の傘」に取り込んだのである。
……一九〇一、二年、南アフリカのオランダ人の共和国に二十万もの軍を送り込み、これを叩き潰し、住民のほとんどを強制収容所送りにしたのは独裁制国家ではなかった。それは平和を愛する反侵略主義の国イギリスである。世に言う「ボーア戦争」「南ア戦争」である。その時、従軍記者として一躍名を馳せたのがあのウィンストン・チャーチルである。
また一九一八年、第一次大戦に約束した独立を反故にするため、また戦中、ロンドン金融界の求めに応じ、トルコから接収したメソポタミアの「モスル油田」等の権益をそのまま握るため、小アジアに住むアラブ人に全面戦争を仕掛け、そして今でも続けているのは独裁制国家ではない。数万人の犠牲者を出しながら二十年間も鎮圧戦争をしているのは、「平和を愛する国」、「民主主義の擁護者」、「民族自決権を尊重する」という、あのイギリスなのである。(このイギリスの所業はリチャード・スミス著『民主主義と世界征服』に詳しい)
これは、ここ数十年、いわゆる「民主主義国家」が始めた数えられないほどの侵略戦争のほんの二つの例に過ぎない。民主主義国家の方が独裁国家より遥かに凶悪なのである。(1941年)
▼ラルフ・タウンセンド(元駐カナダ/上海・米国副領事、作家)