武器ではなく命の水を 医師中村哲とアフガニスタン
アメリカ同時多発テロから15年。今も戦乱の続くアフガニスタンで干ばつと闘う日本人がいる。医師・中村哲(69)。「武器や戦車では解決しない。農業復活こそがアフガン復興の礎だ」。中村は白衣を脱ぎ、用水路の建設に乗り出した。15年たったいま、干ばつの大地には緑がよみがえり、人々の平穏な営みが再び始まろうとしている。戦乱の地アフガニスタンに必要な支援とは何か。15年にわたる中村の不屈の歩みを通して考える。
「普通のドクターや医療関係者がね、この状態を知って放っておいて逃げれるという人はどうかした人でしょうな。やっぱり目の前で困っている人を見捨てるわけにはいきませんよね」
「基礎に栄養状態が良くないというのがあります。それから衛生状態が良くないと。水で洗うだけでかなり良くなるんですが。水そのものが欠乏している」(中村哲さん)
「水が来た時ももちろん喜びましたけど、モスクが建つと聞いてもっと喜んだんですよ。これで解放されたと言った。どういうことかと言うと、それまで自分たちが営んできた伝統的な生活がすべて外国軍の進駐によって否定されてきたわけですね。イスラム教徒であることが悪いことであるかのような一種のコンプレックスが村を支配していたんですね」(中村哲さん)
「人は忙しく仕事をしていれば戦争のことなど考えません。仕事がないからお金のために戦争に行くんです。おなかいっぱいになれば誰も戦争など行きません」(村人)
「これは平和運動ではない医療の延長なんですよ。医療の延長ということは、どれだけの人間が助かるかということ。その中で結果として争い事が少ない、治安が良い、麻薬が少ないということが言えるわけで、これが平和への一つの道であるという主張をしたことは少ないと思います。ただ戦をしている暇はないんですよと。戦をするとこういう状態がますます悪くなるんですよと。それにはやっぱり平和なんですよ。それは結果として得られた平和であって、平和を目的に我々はしているわけではない」(中村哲さん)
マルワリード用水路をはじめ、これまでに中村哲さんが工事や修復を手掛けた用水路は9か所。ナンガルハル州の3つの郡にまたがっています。これらの用水路によって潤う田畑の総面積は1万6000ヘクタール。実に60万人の人々の命を支えています。中村哲さんが作る用水路のシステムはナンガルハル州に根付き始めています。国連機関やJICAとの連携も始まっています。しかし、この用水路の恩恵を受けているのはアフガニスタン全体の人口の2%にすぎません。国連は2014年、国民の約3分の1が干ばつによる食料不足に直面していると警告。さらにアフガニスタンは今、新たな脅威に直面しています。イスラム過激派組織ISの台頭です。ナンガルハル州でもISは勢力を拡大しています。その影響で都市部に逃げていく農民が後をたちません。ISが勢力を拡大している地域は干ばつのひどい地域と重なりあっていると中村哲さんは言います。勢力を拡大するISに対し、アメリカを中心とした先進諸国は空爆で対抗しようとしています。8月にはアフガニスタンでも空爆が実施されました。911テロから15年、出口の見えない戦争が続いています。
中村哲さんは今、用水路のノウハウをアフガニスタン全土に広めるため新たなプロジェクトを立ち上げようとしています。ワルワリード用水路沿いに用水路建設の専門家を育てる職業訓練校を設立する計画です。現在、学校で使わる教科書を作成中。アフガニスタン全土から生徒をつのり現地の若い専門家を育てるつもりです。
「作業中の上空を盛んに米軍のヘリコプターが過ぎてゆく。彼らは殺すために空を飛び、我々は生きるために地面んを掘る。彼らはいかめしい重装備、我々は埃だらけのシャツ一枚だ。彼らに分からぬ幸せと喜びが、地上にはある。乾いた大地で水を得て、狂喜する者の気持ちを我々は知っている。水辺で遊ぶ子供たちの笑顔に、はちきれるような生命の躍動を読み取れるのは、我々の特権だ。そして、これらが平和の基礎である」(中村哲 手記より)
参考:http://tvmatome.net/archives/4898