植木安弘 上智大学教授 「国連と日本人」(13) 2016.10.3
Yasuhiro Ueki, professor, Sophia University
広報畑を中心に国連勤務歴32年。次期事務総長選は「グテレス元国連高等弁務官が最有力だが、ロシアの動向がカギ」「国連安保理改革は最初に非常任理事国、次に常任理事国と二段階で考えるのが現実的」。
上智大学教員ページhttp://rscdb.cc.sophia.ac.jp/Profiles/12/0001187/profile.html
司会 中井良則 日本記者クラブ顧問
http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2016/10/r00033940/
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記者による会見リポート
元広報官が解き明かす国連の今、そして改革
植木さんは1982年に国連に入り、国連事務局広報局に勤務した。その後、ナミビア、南アフリカでの選挙監視をはじめ、国連イラク大量破壊兵器査察団の報道官、スマトラ沖大地震・津波ではインドネシア・アチェで報道官など、国連本部と現場の双方で広報畑の要職を歴任した。2014年4月からは母校・上智大学の教授を務めている。
この日の会見は、次期国連事務総長選と国連改革の2つがテーマだった。
次期国連改革については、アントニオ・グテレス前国連難民高等弁務官(ポルトガル元首相)が最有力としたが、植木さんの予測通り、国連安保理は10月6日にグテレス氏を次期事務総長として国連総会に勧告する決議を全会一致で採択し、同氏の次期事務総長就任が確実となった。
植木さんは、「国連事務総長には、国連組織の行政トップとして、政治家・外交官としての2つの顔がある。この2つのどちらを重視するかで評価が決まってくる」と指摘。「ガリ氏は政治家の顔が強く、アナン氏は1期目は行政トップ路線だったが、2期目になると政治家の顔が表に出てきた。現職の潘基文氏は、2期とも行政トップの顔を前面に出し、安保理常任理事国と対立しないことを重視してきた」と歴代の事務総長の特徴を解説した。
日本が関心を持つ安保理改革については、「改革論議が始まって20年以上もたつが、進展はゼロで目途も立っていない。一気に実現しようとしてもダメ」と指摘して、持論の2段階改革論を提言した。
第1段階では、非常任理事国の任期を現在の2年から4年くらいに延長、さらに非常任理事国の枠を拡大するというもの。それを実施したうえで、第2段階の常任理事国の改革に進むというのが、植木さんの2段階改革論だ。「常任理事国改革には国際政治状況の大きな変化が必要だが、とにかく日本が継続的に国連の意思決定に関与できるようにすることが大事」
そのほかの改革としては、国連内部の人事が硬直化していると問題点を指摘した。「たまにポストに空席ができると、1つの空席に平均で150人の応募がある。人事体制の改革も次期事務総長にかかっている」
現職の潘基文事務総長については、日本ではその手腕について批判が強いが、「前任の2人が米国と対立して国連が厳しい状況に置かれたので、大国との摩擦を避ける方向を選んだ。その評価は、もう少し時間がかかると思う。潘氏が反日的との批判が日本ではあるが、私はむしろかなり親日的だと思っている。否定的な部分ばかりを強調するのはいかがかと思う」と語った。
また、中国の国連政策については「これまで経済・社会関連のシニアポストについてきたが、近年、国連PKOにも積極的になっており、国連内部で政治的に行動できるシニアポストを狙っている。いずれにせよ、中国は国連内部でも戦略的に動いている。これに対し、日本はPKOにしても『頼まれたからやっている』との印象があり、戦略性に欠ける」と解説した。
植木さんは2003年のイラク戦争では開戦2日前まで現地で報道官をやっていた。イラク戦争関連の質問に対し、「現地の査察員は、『大量破壊兵器はおそらくないだろう』と話していたが、米国はフセイン体制を倒すことを最優先した。体制崩壊後に与党バース党と軍を解体したのが間違いだった。またイラクを知っている人たちを占領政策に関与させなかったのも混乱を生む原因となった。あのイラク戦争がなければ、今の世界の在り方はかなり違ったものになっていたはず」と答えた。
日本記者クラブ専務理事
土生 修一