ドラゴンについて -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
数々の英雄伝説や冒険物語に登場する伝説上の生物で、洞窟や山奥などに棲む。空を飛び、火を吐く。
伝説物語「赤い竜と白い竜」
ブリトンの大君主ヴォーティガーンは王国を異民族から守るためにサクソン人と手を組んだ。しかし、これによって更に劣勢に立たされた事を知ると、自分が逃げ込むための堅固な塔を建設しようとした。ところが、何度作っても塔はくずれてしまう。そこで、王はその原因を突き止めることの出来る者を募った。すると、夢魔を父に持つ幼きマーリン(後にアーサー王伝説にも登場する「魔術師マーリン」)が現れ、地底で戦う二匹の竜のためだと告げ、王国の未来についてこう予言した。「ああ殿下、赤い竜のために泣いてやってください。最期の時が迫っています。赤い竜の家はまもなく白い竜にのっとられてしまうでしょう。白い竜こそ、あなたがみずからの王国に招き入れたサクソン人なのです。赤い竜はブリテンの民です。ブリテンの民は白い竜の一族によって追い立てられてしまうでしょう。ブリテンの谷は枯れ、山は禿げ、川は血に染まるでしょう。都市は略奪され、教会は焼け落ち、民は殺され、しいたげられるでしょう。災厄(わざわい)があなたの王国全土にひろがるのです。」
この伝説物語は、赤い竜の絵柄の旗を掲げるウェールズ人の祖先、ブリトン人と竜とのつながりを語ったものである。
伝説物語「竜の星」
12世紀に書かれた「ブリタニア列王記」の中で、魔術師マーリンは、ウーゼル・ペンドラゴンとその跡を継ぐことになる息子のアーサーが、アンブロシウス・アウレリエス(アウレリアヌス)亡きあとのブリテンの正当な王位継承者であることを示す。その証拠には星辰の動き(彗星)に現れるというのである。
アウレリウス王の弟であるウーゼルが、サクソン人と一戦をまじえるために行軍中のこと、空にひときわ明るく輝き光の尾を引く巨大な星が現れた。それを見たマーリンはウーゼルに進言する。「われらが至高の王、神のごときアンブロシウス・アウレリウス(アウレリアヌス)さまが、お亡くなりになられたのです。王さまの死が、われらの死とならしめてはなりませぬ。いまこそ、ブリテンの竜の軍隊が、サクソン軍に勝たねばなりません。さあ、ウーゼルさま、進軍です。あなたこそ兄上の跡を継いで、ブリテンの王となるべきかたです。そしてそこから伸びる一筋の光の尾は、あなたのご子息をあらわしています。やがて立派に成長され、あなたの跡を継いで王となられるでしょう。」ウーゼルの軍は勝利をおさめた。これ以降、彼は「ウーゼル・ペンドラゴン(ブリテン語で「竜の頭」の意)」の名で知られるようになった。
その後、11世紀にノルマンディー公ウィリアム征服王がブリテンへの侵入を開始したちょうどその時、ブリテン島の上空に巨大彗星が現れた。そこで、ウィリアムはこの竜の伝説を利用して、当時ブリテンを支配していたサクソン人たちに向けて、「われこそはアーサーの再来なり。竜の星が空に燃えている間に、いにしえの予言を実現し、サクソンの簒奪(さんだつ)者を打ち倒し、アーサーの王国を奪い返さん」と宣言した。かくして、ヘイスティングズの戦いで、ウィリアムはブリトンの王冠を手に入れた。
コミック「クリスタル・ドラゴン」あしべゆうほ作
「エリンの島より海を越えたる遥かな地に、人の登らぬ高き山あり。その雪に閉ざされし頂きに、一面の薔薇に囲まれたる水晶宮ありて、醜き小人(ドワーフ)どもに守られつ、水晶の竜(クリスタル・ドラゴン)すめりという。エリンの民はその昔海を越え来たるケルト人なり。すなわち黄金の髪と青き瞳の一族(クラーナ)なり。
古き砦に闇が巣くう時、杖なき魔法使い(ドルイド)」が現れる。杖なき者は魔法を持たず、闇は嵐を呼ぶだろう。杖なき魔法使い(ドルイド)は杖を求め、天と地の境水晶宮への道をたどる。」
物語「聖エフラムとアーサー王の探求の旅(ブルターニュの物語集「バルザス・ブレイズ」より)」イアン・ツァイセック編/山本史郎・山本泰子共訳
アイルランドの王子がいとこの英雄アーサーを助けて、恐ろしい竜を退治する物語。「いよいよ竜が穴から出てきました。見るも汚らわしく、全身から湯気が立ち登っています。額の真ん中に真っ赤な眼がひとつ着いていて、身体は重たい緑の鱗(うろこ)で覆われています。その姿は大人の牡牛のようですが、尻尾は螺旋状にねじれていて、ちょうどねじ釘のように見えます。そして関節という関節には、敵の接近を防ぐため、針のようにとがった角がついています。」
映画「ドラゴンハート」にも、竜退治をするボーエンと出会い、共に旅をする修行僧が登場する。