妖精の塗り薬(軟膏)について -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
妖精の塗り薬(フェアリー・オイントメント)を目に塗ると、人間にも妖精の姿が見えるようになる、あるいは呪縛をとく効力があると言われている。しかし、それを妖精に知られると、盲目にされるか生きる気力を奪われて早死にしてしまうのである。主成分は四葉のクローバー。
コーンウォール民話「チェリーと妖精の塗り薬」ロバート・ハント編/井村君江訳
むかし、コーンウォールのゼノアの村に、チェリーという娘がいた。チェリーは14歳になったので、家を出て働くことにしたのだが、家が遠くなるにつれ次第に心細くなって、とうとう座り込んで泣き出してしまった。
チェリーが泣いていると、1人の紳士が現れて「困っているならうちへ来て、男の子の面倒をみてくれないか」と話しかけてきた。チェリーは優しそうな紳士の申し出に従うことにした。紳士の後をついていくと美しい庭にたどり着いた。そこで2人を出迎えたのは、いじの悪そうなおばあさんと目つきの悪い男の子であったが、チェリーはそこで働くことにした。
チェリーに与えられた仕事には、いくつか奇妙な点があった。まず朝起きたらすぐに、男の子を井戸に連れていき、よく目を洗ってから、緑の塗り薬をまぶたに塗るのであったが、チェリー自身は決してそれを塗ってはいけないときつく言われていた。それから家の主人である優しい紳士がときどき姿を消すのも不思議であった。そんなこともあったが、チェリーは代わらず優しい紳士を好いていたので、幸せに思っていた。
ところが、ある朝、チェリーは男の子に塗った薬が手に残っているのに気づかないまま、ついうっかりとその手で目をこすってしまった。その途端、目がひどく痛みだしたので、チェリーは目を洗おうと泉にやってきた。すると、水底に小さい人々と一緒に楽しそうに躍っている紳士の姿が見えたのだ。チェリーは戻ってきた紳士に全てを知られてしまい、もうそこにはいられなくなった。出会った場所まで見送りに来た紳士は、別れを惜しむチェリーに「いい子にしてればまた会いに来るから」と言って去っていった。
その後、家に戻ったチェリーは、死ぬまで働きに出ようとはせず、いつも誰かを待っている様子だったという。