バンシーについて -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
アイルランドとスコットランド(ベンニーとも呼ばれる)の両方でよく知られていて、スコットランドでは「悲しみの洗い手(ザ・リトル・ウオッシャー・オブ・ソロー)」とか「浅瀬の洗い手(ザ・ウオッシャー・アト・ザ・フオード)」などと呼ばれている。流れるような黒髪、火のように赤い目をして、緑の服の上に灰色のマントを羽織っている。死の近づいた人間の衣服を洗うのだといわれており、バンシーが川のほとりで嘆き悲しむ声が、しばしば聞かれている。幾人かのバンシーが一緒に泣き叫ぶときは、偉大な人か、聖なる人の死の前触れである。もし彼女をつかまえて離さずにいれば、死ぬことになっている人の名前を教えてもらえるし、その上、三つの願いごとを叶えてもらえる。
アイルランド民話「オブライエン家のために泣くバンシー」オブライエン夫人談/グレゴリー夫人記/ヘンリー・グラッシー編/大澤正佳・大澤薫共訳
ある日、ジョニー・ラファティーがやってきてこう言うのです。「今ここを通りかかったら、土塁がある丘のほうから泣き声が聞こえてきた」。そのあとすぐにエレンが、家の中に駆け込んできてこういうんですよ。「とっても悲しそうな泣き声が聞こえてきたの。あんなに悲しそうな声は聞いたことがないわ。このうちのすぐ裏のほうからよ」それで私は申しました。「こりゃきっとバンシーの声だ」って。すると、アントニーがベッドの中から大声で言いましたっけ。「そいつがバンシーだとしたら、わしのために泣いてるんだ。今日明日にもわしは死ぬだろう」。その言葉のとおり、あくる日の昼ごろ、アントニーは亡くなりましたよ。
アイルランド民話「ボイル家のために泣くバンシー」T・G・Fパターソン記/ヘンリー・グラッシー編/大澤正佳・大澤薫共訳
そいつは経帷子をまとって、まるで棺桶から抜け出してきたような姿をしておった。髪を風になびかせてな。わしもおっかさんもその姿を見た。おっかさんはお祈りを唱えた。たしか二度繰り返して、それから、「あれは、バンシーじゃ」と言った。
アイルランド民話「バンシー体験談」ジョセフ・フラナガン&ピーター・フラナガン談/ヘンリー・グラッシー記/大澤正佳・大澤薫共訳
ジョセフ:ある晩のこと、わしは丘を下っておった。真夜中の1時頃だ。わしの家はジョン・カーソンの家の近くにあったから、そこから1/4マイルほど先だった。ちょうどそのあたりで、あの泣き声が聞こえてきたのだ。それは、ちょっと途切れてはすぐまた泣き出すという具合だった。それでわしは、こいつはバンシーに違いないぞと思ったわけだ。ところで、バンシーが泣くと身内の誰かが死んだか、それとも死にかけているか、あるいは死ぬことになると言われている。この時も、それから1日か2日かして、遠縁の者が死にかけているという知らせがはるかヨークから届いた。あの男はこの地元に暮らしてはいなかったが、わしら一族の者で、といとうコークでその一生を閉じたのだ。
ピーター:なるほど。あたしもバンシーの泣き声を聞いたことがある。その声は、カーソンの家のすぐ下の家から聞こえてきた。泣き声はものすごかった。やつはずんずん近づいてくる。すぐそばまで近づいてきて、道のぴったり右っかわへきた。そこで、ピカーッと光ったかと思うとひとっ跳びに2~3百ヤードも向こうに飛び降りた。ひとまずわしから離れていったわけだ。「やれ、ありがたい」と、あたしはつぶやいた。明くる日のことだ。ちょうどそのあたりに住まっていた者が死んだ。