クー・フリンについて -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
アイルランド北部(アルスター、コナハト地方)に伝わる英雄伝説の主人公(これに対し、南部のレンスター、マンスター地方には、フィンやオシーンの登場する「フィン伝説」がある)。1922年、アイルランドがイギリスの直接統治から解放されて自治領「アイルランド自由国」となった記念に、ダブリンの中央郵便局(1916年にイースター蜂起の舞台となった場所)に「瀕死のクー・フリン像」が設置された。伝説の英雄と祖国の独立のために殉じた愛国者を重ね合わせて、独立の喜びと民族の誇りを表現するための象徴としたのである。
叙事詩「クーリーの牛争い(トェン・ボー・クールニュ/通称トイン)」
ある日、コナハトの王宮で、王アーリルと女王メイヴがお互いの財産比べを始めた。はじめは冗談であったものが、次第に激しい言い争いになってしまう。二人の所持品はほぼ互角であったが、ただひとつ王の所有する牡牛「フィンベナッフ(白角)」だけが秀でていた。そこで女王はそれに匹敵する牡牛「クーリーの褐色」を隣国アルスターを入手すべく使者を遣わした。
ところが交渉は決裂。女王はアルスターに大軍を送った。女神マハの呪いによって戦力を押さえられたアルスター軍の中で、ただ一人少年戦士のクー・フリンが超人的な活躍をして、メイヴの牛獲得は失敗におわる。しかし、この一件でメイヴの恨みを買ってしまったクー・フリンの元に、妖術を身につけたカラティンの息子たちがおくられる。クー・フリンは彼らの妖術に惑わされて「誓約(ゲッシュ)」を交わし、自分の武器である三本の槍を奪われてしまう。そして、その槍によって命を落とすことに…。
瀕死の英雄は自らの内臓を拾い集めて身体に収め、ベルトで石柱に身体を縛り付けるとそのまま息絶えた。死の直前、女神モリガンが烏の姿で現れて彼の肩に止まり、最後の別れを告げたという。