コリガンとは -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
ブルターニュ地方の伝説に登場する小人族。時には悪鬼・小人・妖精の総称とされる。たいていは真っ黒でけむくじゃらの、頭でっかちで非常に醜い容貌の小人として登場する。土の中で生まれ土の中で死ぬが、ドルメン(新石器時代末から青銅器時代にかけて建てられた巨石墳墓で、怪力の持ち主であるコリガンたちの手で建てらたとも言われている)に住んでいるとも信じられている。意地悪というよりは、いたずら好きで、礼儀をわきまえている人に危害は加えない。夜道を急ぐ通行人を巻き込んで、明け方まで躍り明かすこともある。(そのため、ひと昔の人々が夜道を歩くときには、彼らと出会うのを避けるために上着を裏返しに着る、というならわしがあった。)また、農民にとっては守り神となる。コリガンは夜の間にそっと農家に入り込んで、鍋を磨いたり、家具のほこりを払って艶だしをしたり、逃げ出した家畜を小屋に連れ戻すこともあるという。なかでも馬はコリガンのお気に入りで、馬草を与えたり、鬣(たてがみ)を編むのが好きだとされている。「親切な小人は、農家の宝物」であり、彼らの奉仕に報いるために、人々は、テーブルの上にミルク、バターをたっぷり塗ったクレープ、ラード、キャベツなどを置いてから床につく。すると翌日、部屋はきれいに掃除され、火の上ではスープがとろとろと煮込まれているのである。ただし、彼らに対して意地悪な態度をとった者には、災難が待っている。馬小屋からは毎晩、何頭もの馬が逃げ出し、作物は掘り起こされ、果実は熟れる前に落とされる。そのような多くの災難はコリガンたちの復讐なのである。
一般に、コリガンは小人族あるいは妖精の一族とされているが、一方で実在説もある。彼らはケルト民族の移住以前からこの地に定住していた土着の人々で、その後ケルト民族に追われてドルメンの中に逃げ隠れ、ついには後世の人々の記憶の中で超自然の住人に変えられてしまったのではないか、とも言われているのである。
ブルターニュ民話「コリガンのドルメン」植田祐次・山内淳訳編
商売の帰り道、ジョビックはコリガンたちの住処(すみか)であるドルメンの前を通りかかった。ちょうど小教区内の鐘楼が、12回の鐘の音を告げていた。胸に十字を切ったジョビックは、すぐさまその場を逃げ出そうと思ったが、ドルメンの入口に置かれた一枚の美しい銀貨が目に入った。一瞬ためらったが、彼は今日の取引での不足分の穴埋めにちょうどいいと考え、それを拾おうとするが、その途端、ジョビックの体は深い深い穴底へと吸い込まれていった。
目を覚ますと、ジョビックはコリガンの宮殿にいた。そして彼の目前で祭の祝宴と踊りが始まるのだが、それに見とれていたジョビックのところに、コリガンの王ルウェ・デュ(闇の王)がやってきて、彼の娘との結婚の申し入れをした。もし、その話を承諾すれば、彼らの王の座も宝も全てがジョビックのものになるという。
ジョビックは誘惑に負けそうになったが、ふと自分の家と妻、子供たちの姿が頭をよぎり、彼は神に祈りながら十字を切った。すると、たちまち地面が揺れ動き、宮殿が崩れ落ちてコリガンたちは恐ろしい叫び声をあげて逃げ出した
死を覚悟して目を閉じたジョビックがふたたび目を開けてみると、太陽が地平線に顔を出し始めていた。自分がドルメンの入口に横たわっていることに気づき、すぐさま銀貨や自分の落ちた穴を探したが、跡形もなく消えていた。