レプラホーンとは -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
レプラコーン、またはレプレコーンともいう(映画「ミニミニ妖精大冒険・アイルランドの森を守れ」では、地下に住む妖精としてレプラコーンの名で登場)。レプラホーンは、一般的に姿は老人で帽子をかぶり皮のエプロンを前に垂らしている靴作り(靴屋)として描かれる。ふつう人里離れた秘密の場所にいるが、底革をたたくハンマーの音で居場所がわかる。彼は気難し屋だが金持ちで、脅されると自分の宝の隠し場所をもらすことがある。しかし、彼の甘い言葉に乗ってうっかり目を離すと途端に姿をくらましてしまう(…というのが常である)。ダグラス・ハイドによると、レプラホーンという語は「片方の靴」の意の「レイヴローガン」から派生したものとされているが、これは人々が目にした彼らの多くが靴の片方を作っているところであったからである。アイルランドの一人暮らしの妖精仲間にクルラホーン(Clurachaun、Cluricaun、Cluracan)がいるが、いつも酒蔵に入り浸って酔っ払っている彼らは、このレプラホーンが仕事を辞めて、飲んで浮かれてる姿だとする説もある。
「ルグナサド(ルーナサの祭)」やチェス・ゲーム、そしてオリンピックの始祖とも言われる太陽神ルーグの愛称は「長腕のルーグ」と「ルフクロマン(”猫背のルーグどん”の意)」だった。この「ルクフロマン」を英語化したのが「Leprechaun=レプラコーン(小妖精)」である。
アイルランドでは、交通標識にも登場する。”LEPRECHAUM CROSSING”「レプラコーンが横断するので、車は気をつけろ!」と警告しているのである。
詩「レプラホーン~妖精の靴屋」ウィリアム・アリンガム 作
ある日、仕事の最中にやつを私は捕まえた
ジギタリス生える城の堀
しわでしなびた髭面エルフ
とんがり鼻に眼鏡をのせて
銀のバックル靴下につけ
革のエプロン、膝に靴
「リップラップ、ティップタップ、タックタックトゥー!(バッタがわしの帽子に乗った、蛾のやつひょいと飛んでった)」
妖精王には編み上げブーツ
王子様にはブローグ靴じゃ
きちっと払えよ、きちっと払え
わしの仕事が済んだらな!」
確かにやつを手に入れた
じっと見てやりゃ、じっと見返し
「家来、でございます!」「ふふん!」
と言いざまに、かぎ煙草をば取り出して
たくさんつまんで、愉快な笑顔
不思議なちびのレプラホーン
箱を差し出す奇妙な礼儀
プウー!と顔に塵を吹きかけ
私がくしゃみをしているすきに
やつはどこかへ雲がくれ!
アイルランド民話「庭の中のレプラコーン」トマス・カイトリー編
「ある日突然、私は庭の隅にある低木の茂みの中で、タントン、タントンという音を聴いた。まるで靴屋が靴の踵を打ちつけているみたいだった。「こいつはぶったまげた。」「いったい全体、あれは何だろう?」私はそっと低木のところにしのびよった。私は自分の目を疑った。本当に見たのだ。小さな老人が一心不乱に一足の紐なし靴の踵を打ちつけていた。私はその姿を見た瞬間にレプラコーンだと知った。」彼女は近づいて捕まえようと試みたが、やはりちょっと目を離したすきに逃げられてしまい、彼女の庭で再びあの音を聴くことは無かったという。
アイルランド民話「利口なトムとレプラコーン」トマス・カイトリー編
オリヴァー・トム・フィッツパトリックはある日、散歩の途中で、生け垣の中にいる小さな老人を見つけた。その小さな老人は腰を下ろして、自分の足にちょうど良く合う大きさの短靴に底革を打ちつける仕事をしていた。「おお、何と有り難いこと。神様のおかげだ!」とトムはひとりごとを言った。「私はよくレプラコーンの話を聞いたが、正直なところ信じなかった。しかし、ここに間違いなくその一人がいる。もしも私が抜け目なくやったら、金持ちになれるだろう。人の話では、彼から宝の場所を聞き出すまでは、決して目を離してはいけないということだ。目を離したら彼は逃げてしまうから。」そこで、レプラコーンを捕まえたトムは、首尾良く宝の隠し場所を聞き出し、その場所に生えていたサワギクの根元に赤い靴下止めで印をしてから、ようやくレプラコーンを解放した。そして、シャベルを手に戻ってきたトムが見つけたものは…。一面に茂ったサワギクには、一本残らず彼のものと全く同じ赤い色の靴下止めが結ばれていた。
グリム童話「小人の靴屋さん」
むかしむかし、あるところに靴屋さんがいました。彼は何も悪いことをしていないのに、貧乏になってしまい、とうとう一足分の靴を作る皮しか無くなってしまいました。靴屋さんは明日最後の靴を作ろうと思い、その皮を裁ってから、ベッドに入りました。ところが、朝のお祈りをすませてから仕事を始めようとすると、靴はもうすっかり出来上がっていました。それはそれは素晴らしい出来映えで、いつもの二倍の値段で売れました。そして、そのお金で買った皮を裁っておくと、次の日には二足の靴が出来上がってるのでした。そうして、靴屋さんはお金持ちになりステキな靴を作り続けることが出来るようになりました。不思議に思った靴屋さんがそっと夜中に覗いて見ると、小人が出てきて靴を縫っていたのでした。」この親切な小人たちも、レプラホーンだったのかも知れません。もしも彼らが現れたなら、夜中に物音を立てたり、彼らに贈り物をしたりしてはいけません。姿を見られたことを知った途端に、彼らは逃げてしまいます…。
アイルランド民話「妖精の砦」ピーター・フラナガン談/ヘンリー・グラッシー編/大澤正佳・大澤薫共訳
男の言うには、まずおだやかにこう話しかけたのだそうだ。「待ってくれ、いまおまえを掴まえるから、そこにいるんだぞ。」そうして手をのばして妖精を掴まえようとした。ところが妖精には羽があった。それでひらりと枝に飛び移った。とまあ、こういうわけだ。優しく扱って居たら….妖精は黄金のありかをおしえてやるとそう言っていたのだからな。しかし男は妖精を恐がらせてしまった。妖精は恐い目あうと、薄い空気になって消えちまう。このときもそうであった。
アイルランド民話「ジャックとクルリコーン」C・ホール夫妻記/ヘンリー・グラッシー編/大澤正佳・大澤薫共訳
ジャックはある娘に首ったけになっておった。かなりの金を積んで口説いたのだが、ペギーの父親がうんと言わない。大枚の「ギニー金貨」を積まないかぎりどう頼んでも無駄だというのだ。それでジャックはすっかり頭に血がのぼっちまった。ところで、ジャックはそれまでに、エディコナーのあばら屋になった農家の地下に住むというクルリコーンの話を幾度も耳にしておった。それで、ジャックはなんと畑を耕すのも種を蒔くのも伯父貴にまかせっぱましにして、昼といわず夜といわずそのクルリコーンを見張りはじめた。クルリコーンという奴はこっちが目を離さずにおるかぎり身動きができない。ジャックはそのことをよく承知しておった。そんなある日、クルリコーンはジャックに言った。「もしもこのわしを、優しく丁寧に、間違っても小鳥かなんぞのように爪先を摘み取ったりしないで、あの”ナイン・エーカーが原”の真ん中に連れていってくれたら、探すだけの値打ちのあるものを教えてやろう」。”ナイン・エーカーが原”に着うて、いよいよクルリコーンから黄金の場所を聞き出そうとした時、ジャックの肘のあたりでペギーの泣き声が聞こえた。うっかりジャックは振り向いた。そこにはペギーの姿はなく、沼地を揺るがすような高笑いを残してクルリコーンの姿も消えちまった。
後悔の涙にくれるジャックは、ふとクルリコーンの言葉を思い出した。「その目をわしに注いでるように、その心を自分の仕事にしっかりと注いでおれば、クルリコーンを追いかけ回さずとも、金は充分に手に入る」。その日からジャックは生まれ変わった。小人の靴屋の言葉を胸に働いて、5年の後にはペギーの親父さんにギニー金貨2枚を払った。そうしてこの夫婦は12人の子どもを授かった。目出たいことだ。