セルキーとは -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
セルキーはスコットランド北東岸沖に浮かぶオークニー諸島や北岸にあるシェトランド諸島のアザラシ族で、スコットランド高地地方のローン(Roane)とよく似ている。
これらの諸島では大アザラシ、トサカアザラシ、灰色アザラシなどのひじょうに大型ものは、アザラシの毛皮をまとっている妖精(堕天使)だと考えられている。
人間の姿になった時はとても美しく、男のセルキーはよく人間の女たちの所へ口説きにやって来た。女のセルキーは、毛皮を持ち去られると捕らわれの身となって、最後に人間の男と結婚することになる。しかし隠されていた毛皮を見つけると、海底の自分たちの棲む世界へと帰って行ってしまう。
伝説「カウンティー・フォークロア第3巻 トレイル・デニソンの話」
高慢で情熱的な娘(アーシュラ)は、自分の夫に満足できず、セルキーを呼び出して愛人にし、彼の子供をたくさん産む。その子供たちは、手足に水かきがついており、その子孫も同様となる。トレイル・デニソンが収穫期に雇ったある男について語ったところによると、その男は手にある角状の突起物のために藁束を縛ることができなかったという。その男はアーシュラの子孫だったのである。
スコットランド(高地)伝説「けがをしたアザラシ」
スコットランド北海岸にアザラシ狩りの得意なひとりの漁師が住んでいた。ある日、人間に変身したアザラシに誘われてついて行くと、けがをした父アザラシが横たわっていた。
自分のナイフで傷ついたと聞かされた漁師は、アザラシに言われるまま傷口に手を当てた。そうすると「傷は下手人の手または刃が触れると治る」という迷信通り、たちまちアザラシは元気になった。漁師が「今後アザラシ狩りはしない」という約束をすると、アザラシは別れ際に彼が暮らしていくに充分な贈り物をくれた。
小説「フィオナの海」
1940年代の終わり頃、少女フィオナはアイルランド北西部に住む祖父母に引き取られる。
フィオナの一家(コネリー家)はかつてローン・イニッシュと呼ばれる小さな島に暮らしていたのだが、その島で母と弟を失い、誰も寄りつかなくなっていた。フィオナは祖父やいとこのイーモン、叔父のタッドらからアザラシに助けられた先祖の話や、不思議な力で海にさらわれた弟ジェミーの話を聞かされる。彼女は自分たちがアザラシ妖精セルキーの末裔であり、弟もアザラシと共にローン・イニッシュの近くで生きていると信じ、島に戻る決心をする。
そしてジェミーと再会するが、名前を呼んでも逃げられてしまう。ジェミーの身を案じたフィオナはイーモンと二人で力を合わせて昔の家を修理し、ある嵐の夜、祖母に打ち明け、島へ渡る。夜になると、アザラシに導かれて弟ジェミーが家族の待つ浜辺に戻って来た。この物語は1994年アメリカで「フィオナの海(The Secret Of Raon Inish)」として映画化された。
アイルランド民話「トムとあざらし女房」ジェレマイア・カーティン記/ヘンリー・グラッシー編/大澤正佳・薫訳
ある朝早く浜辺の畑で仕事をしていると、そのあたりでは見たこともないような美しい女が、磯の岩の上でぐっすりと眠りこんでいるのが目にとまった。あくる日、トムは女に声をかけた。「わたしといっしょにきてくれ」。答えがないのでトムは女の頭から頭巾を取ると、女の腕を取って家に連れ帰った。それから7年、女はトムと暮らし、3人の息子と2人の娘を産んだ。
ある日、トムは鋤の留釘を探すため、納屋の2階に積んであった袋や綱を下へ投げ降ろした。そのとき7年前に女から取り上げた頭巾もうっかり投げ降ろしてしまった。それを見つけた女房はすぐに拾い上げて、トムに気づかれないうちにかくしてしまった。ちょうどそのとき、海の方からあざらしの大きく吠える声が響いてきた。「ああ、あれは兄さんがわたしを探している声だわ」と、女房はつぶやいた。トムの女房は大あざらしとともに海の彼方へと消えていった。あとに残った5人の子供たちの手足には、指のちょうど半分あたりまで水掻きがついていた。
トム・ムアとあざらし女房の血筋の者は今でもキャッスルグレゴリー近くに住んでいて、やっぱり手足の指の間に水掻きが残っているという話だ。もっとも、何代もたつうちに、だいぶ小さくなってしまったということだが。