ティル・ナ・ノグについて -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
原意は「若者の国」。西方の海の彼方の地で、古代ケルトの神々、トゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ)族が、現在のアイルランドの祖と言われるミレー族との戦いに破れた際に退却した場所の1つ。「常若の国(ティル・ナ・ノグ)の他にも「楽しき郷(マグ・メル)」や「喜びケ原(メグ・メル)」「至福の島(ハイ・ブラゼル)」「約束の国(プロミスド・ランド)」「波の下の国(ティル・フォ・スイン)」などと呼ばれる楽園があるが、彼らはそこに、それぞれ王宮を建て、目に見えない種族、妖精(シー/sidhe)や精霊(シーブラ)となったと信じられている。
「力を持ち富める者達は、古代アイルランドの神々をトゥアハ・デ・ダナーン種族、あるいは女神ダヌの種族と呼びましたが、貧しい者達は、その神々を「シー(妖精)」と呼びます。妖精の丘に住む者達の意味です。」(W・B・イエイツ)
ティル・ナ・ノグには、いつもリンゴの木がたわわに実を付け、生きている豚と、いくら食べてもなくならない料理された豚と、飲んでも尽きることのないエールがあるという。また、そこには不老不死の楽士や永世を得た英雄たちが憩っている霊境だと信じられていて、クー・フリンやオシーン、ブランそしてアーサー王もこの国で永遠に楽しい日々を過ごし、祖国の大事の時にはそこから帰り、一年に一度のハロウィーンの日(10月31日)には、従者を従えて馬に乗って現れ、妖精の丘をひとめぐりすると言われている。
伝説「ティル・ナ・ノグへ行ったオシーン」
「夢の彼方にありし喜びの幸う国
この目もあやなりし麗しの国
常しえに果実はなり花は咲き匂う
森には滴るばかりの野性の密
葡萄酒や密酒の樽は底を見せず
我が民は老いも痛みも知ることなく
病や死さえ近づくことがない
宴は永久(とわ)に尽きることなく
大広間に美しき調べは鳴りやまず
黄金と宝石に満ちた常若の国
ああ誰しも憧るる素晴らしき国…」
魔法の歌が終わったとき、オシーンは王女ニアヴを腕に抱き、白馬の背に乗っていました。そして鈴の音が鳴り響くと、夕陽の方角に馬を向け一気に駆け去ったということです。
詩「ハイ・ブラゼル~至福の島」(ジェラルド・グリフィン)
人の住む岩を穿つ海原の上に、
影のように島が姿を現したという。
人々はその島を陽光と憩いの国と思い、
ハイ・ブラゼル至福の島と呼んだ。
来る年も来る年も、海原の青い岸辺に
美しい幻影がおぼろに美しく現れた。
金色の雲は島の浮かぶ海に帳(とばり)をおろし、
その島はエデンのように見えた。
遠く、遥か遠く!