ウンディーネについて -民話・神話や伝説の英雄と妖精-
水の精。湖や泉など水の妖精たちは、生命・健康・富・霊感を免徴する存在であるが、常に危険の要素もはらんでいる。同じ水に棲む仲間には、川や湖の精であるスコットランドのケルピーやデンマークのネッケ、ドイツのニクスなどがおり、また海の精には人魚やスコットランドのアザラシ(セルキー)、南フランス・プロヴァンスのイルカなどがいる。そして、泉には病を癒す力があり、幸運をもたらしてくれる女神や水の精が住むという信仰によって、昔のケルトの民は、病や怪我を治す場合には、治療を必要とする手足や臓器の模像を投じ、願い事には馬を生け贄として捧げ、剣や楯などの武器を投げ入れたため、泉や湖から古代ケルトの武器や宝石などが数多く出土している。現在もそうした信仰は続いていて、人々は小石を投げ入れてお祈りをする習慣がある。また、湧き水は他界と深く関係していると言われている。
「水の精ウンディーネは、人間の女と外観は同じでも、イヴの末裔と違うのは、「魂」のないこと。そうした宿命を負ったウンディーネたちは、アダムの末裔の一人と愛し合い、妻となってはじめて魂を得ることができるのです。けれど、夫になった男が、その妻を水上で罵る時、少女は水底の国へ帰らなければなりません。そして、裏切った男が二度目の妻を迎えるとき、水の娘は再び地にあらわれて、夫を殺すことがさだめられているのです。」(訳者そえがき「ウンディーネに寄せる愛に満ちた眼差し」より」
この悲しい水の精の物語は、後のアンデルセンの童話「人魚姫」のモチーフに大きな影響を与えたと考えられているが、作者フーケーは、この作品の典拠を聞かれて、16世紀のスイスの錬金術師であるパラケルズスの地水風火の精に関するラテン語で書かれた古文献をあげたといわれている。
創作「ウンディーネ」フリードリッヒ・バロン・ド・ラ・モット・フーケ(ドイツのロマン派作家)作/岸田理生訳
水の精ウンディーネは、父王の希望によって人間界に送られてくる。永遠の魂を得るには人間に愛される必要があったからだ。そうして、ウンディーネは、森にやってきた一人の騎士と恋に落ち、結婚の儀を交わす。翌日彼女は騎士に全てを打ち明けたが、彼の気持ちが揺れることはなかった。ところが、森を離れて城へと帰った後、ウンディーネは夫に裏切られることに…。
「ウンディーネは長い物語をしはじめた。まるで太古からの事どもを告げる語りべのように。地・水・火・風、四大の自然の中には人の姿に似て人に非ず、また、人にその形を見せぬ者どもが棲んで居ります。炎の中にはサラマンダ、火蜥蜴(とかげ)が眼も彩な輝きを見せて在り、地の底にはノーム、痩せこけて油断のならぬ土の精が在り、森には軽々と飛ぶ風の精霊、そしてまた川や沼、湖や海には、水の精の大家族がいるのでございます。水底の宮は屋根を水晶で葺(ふ)き、その円天井を透かして、陽の、また星々の光が差します。庭には珊瑚樹、紅に青に実をつけ、水の精たちは砂と貝殻の小径を歩くのです。(中略)そこに住むものたちは、優しく愛らしく、たおやかな水の女が波の間にあらわれて唱う姿を見たという漁人のことを、あなた、おききになりはしませんでした?漁人たちは、その女たちのことを語り伝え、伝えて人びとはいつしか水の女をウンディーネと呼ぶようになったのです。そうですわ、ウンディーネ…と。」